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医学の道を志していたのは鞠江とて知っていた。
小牧は一度社会人を経験してから、猛勉強の末、大学を再受験してまで入りなおした。
そうまでするには相応の理由があったのだと思う。
けれど、何度聞いてもはぐらかされるだけで、具体的な専攻までは教えてはもらえなかった。
どうして、と何度も思ったけれど、言いたくないのならとその度に引き下がらざるを得なかった。
でも、まさか――
「小牧さん、産婦人科選ぶって本当ですか!?」
産婦人科を選ぶなんて聞いてない。
「・・・・・・堂上から聞いたの?」
「はい、あの・・・すいません。こっそり聞いたりして。怒りましたか?」
しぜん、伺うような上目遣いになる。
こっそり探るようなまねをしたのはやはり不快に思っただろうか。
嫌われたくないと思う。
けれども、卒業間近のこの時期になっても教えてもらえないのは辛かった。
相談しないで決めるのは別にいい。でも、できれば報告が欲しかった。
それすらもしてもらえないほど、自分が子供だと思われているのかと思うと気が滅入った。
「怒ったりはしないけど。そっか。ばれちゃったか・・・」
ばれちゃった、ということはこれからも隠すつもりだったということか。
一段と胸の重さが増した。
「やっぱり、本当なんですか?」
「うん。本当だよ」
「どうしてそんな・・・・・・」
自然、鞠江の肩が落ちた。
「産婦人科医は多忙な上、訴えられるリスクも高いって聞いてます。なり手も少ないって」
「うん、そうだね。大変な割りに報われることもそう多くは無いと思う」
「それじゃなんで・・・」
殆どが妊娠した女性だとはいえ、殆どが女性とばかりあう職種だ。
しかも、普段目にしないような場所さえ露にするような。
小牧は贔屓目を差し引いても魅力的な男性だ。小牧から誘うようなことがなくても、女性の側からの誘いを受けることもきっと多いだろう。既婚者であるとか、子供を設けているとかは関係ない。女は女なのだ。
鞠江は知っている。
本気になったら、そんなもの障害にすらならないと――鞠江もまた女だから。
「わからないかな?」
「わかりません・・・」
そっか。小牧は少し困ったように眉尻を下げて笑った。
「君を他の医者に見せたくないから」
「え・・・?」
「産婦人科医って、ほら。女の人の身体を診ることになるでしょう?やっぱり、俺は心が狭いみたいで。君のそんなところを他の男に見せたくない」
するり、と小牧は鞠江の腹を撫でた。
「今はまだ、だけどね。いずれ、できる」
小牧の声は確信に満ちていた。そのことに動揺して頬が高潮するのがわかる。
できる、ということは小牧にその気があるということだ。
鞠江とていずれ、とは思っていた。けれども、こんな風に言われると羞恥が湧き上がる。
「そのときに、君の身体を他の男に見せるなんて我慢なら無い。君の何もかも、初めから最後まで俺のものにしないと気がすまない」
くすりと笑う小牧に目を奪われる。
「だから、ごめんね。君を泣かすことになったとしても、俺はこの道を選ぶよ」
君にそっくりな女の子を取り上げるまでね。
ぎゅうっと抱きしめてくる腕はとても力強くて、鞠江は息が苦しいのか心臓が高鳴りすぎて苦しいのかよくわからなくなった。
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